はじめに
みなさん、こんにちは。
今日は推理小説のルールを紹介したいと思います。
里志も尋ねる。
「でも、探偵小説初心者が書いた脚本に、ちゃんと手がかりが撒かれているのかな。最後に意外な真実が、だけじゃあ困る」
「その点も大丈夫。あの子は神経を使いすぎるぐらい使ってあの脚本を書いていたわ。『ミステリーの勉強』をしてね。 十戒も九命題も二十則も、守ったはずよ」
千反田の顔に疑問符が浮かんだ。多分俺の顔にも。十戒だって。
「十戒って、汝神の名を妄りに唱えるなかれ、のですか?」
なぜそんなマイナーな戒をたとえに出すかな。その千反田の疑問には里志が得意気に答える。
「いいや、そのモーゼの十戒に倣った、ノックスの十戒さ。 中国人を登場させてはならない、とか、要するに探偵小説におけるルールを謳った文句だよ。その本郷さんがそういうものを守ったのなら、フェアプレイに疑いはないね」引用:愚者のエンドロール P56
僕の顔にも疑問符が浮かびました。
十戒?
九命題?
二十則?
きっと疑問符が浮かんだ人も多いと思います。
そこで今回はこの3つの「推理小説のルール」について調べてみました。
氷菓をアニメで観た人や原作を読んだ人、これから推理小説を書いてみたいな、と思っている人の参考になればうれしく思います。
特にこれから小説を書こうと思っている人にとって、守るか守らないかは小説の品質に関わるので必読ですよ!
ノックスの十戒
ノックスの十戒とは、イギリスの推理作家ロナウド・ノックスが1928年に発表した推理小説を書くためのルールになります。
ノックスの十戒
- 犯人は物語の最初の方に登場させなければならない
- 探偵方法に超自然の能力を用いてはならない
- 犯行現場に、秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない
- 未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない。
- 主要人物として「中国人」を登場させてはならない。
- 探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない。
- 変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない。
- 探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。
- 探偵の補助役は、自分の判断を全て読者に知らせねばならない。また、その知能は、一般読者よりもごくわずかに低くなければならない。
- 双生児や一人二役の変装は、あらかじめ読者に知らせておかねばならない。
ここに出てくる中国人はそのままの意味ではありません。
当時の中国人は、西洋人にとって中国拳法など未知で摩訶不思議な人たちという存在だったようです。
そうなると、ルール2、ルール4に抵触してしまうため「中国人は出さない」という項目ができたようです。
もちろん、今は中国人を出しても何にも問題ありません。
チャンドラーの九命題
こちらはアメリカの推理作家レイモンド・ソーントン・チャンドラーが発表した推理小説を書くためのルールになります。
チャンドラーの九命題
- 事件発生の状況、事件の解決について、納得できる裏づけがなければならない。
- 殺人と捜査解決の方法が常識的でなければならない。
- 人物、舞台、環境は現実的でなければならない。
- 謎の要素からはなれてもストーリーがしっかりしたものでなければならない。
- その機会が来たときにたやすく説明できるようなわかりやすい構成を持っていなければならない。
- 論理的に頭が働く知的な読者を対象から除かなければならない。
- 謎がいったん解決されたなら、当然そうなるべきであったと思われなければならない。
- すべてのことを一度になそうと試みてはならない。
- 犯罪者をなんらかの方法で罰しなければならない。
- 読者に対して論理的に正直でなければならない。
調べたら10個出てきました。
ノックスの十戒よりもチャンドラーの九命題のほうがザックリした印象があります。
ノックスの十戒と同じような内容もありますね。
ヴァン・ダインの二十則
ヴァン・ダインの二十則は推理作家のS・S・ヴァン・ダインが1936年に発表した推理小説を書くためのルールになります。
ヴァン・ダインの二十則
- 事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。
- 作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。
- 不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。
- 探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない。
- 論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。
- 探偵小説には、必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。
- 長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。
- 占いや心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。
- 探偵役は一人が望ましい。ひとつの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。
- 犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。
- 端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。
- いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。但し端役の共犯者がいてもよい。
- 探偵小説では秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。彼らは非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。
- 殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。
- 事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。
- 余計な情景描写や、脇道に逸れた文学的な饒舌は省くべきである。
- プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。それらは警察が日ごろ取り扱う仕事である。
- 事件の真相を事故死や自殺で片付けてはいけない。
- 犯罪の動機は個人的なものが良い。国際的な陰謀や政治的な動機はスパイ小説に属する。
- 自尊心のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらは既に使い古された陳腐なものである。
- 犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法
- インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる
- 指紋の偽造トリック
- 替え玉によるアリバイ工作
- 番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる
- 双子の替え玉トリック
- 皮下注射や即死する毒薬の使用
- 警官が踏み込んだ後での密室殺人
- 言葉の連想テストで犯人を指摘すること
- 土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法
今回紹介した中でも一番細かく具体的に記されています。
こちらもノックスの十戒と似た項目がありますね。
3つのルールの共通点
3つのルールを見てみると、言葉や言い回しは違うけど似ていることを言っている項目が複数ありますね。
最後にその項目をまとめてみたいと思います。
- 手掛かりはすべて明白にする
- 探偵自身が犯人になってはいけない
- 倫理的な推理が必要である
- 占いなどで犯人を特定してはいけない
- 殺人の方法は現実的なもので行う
- 双子の替え玉トリックは避けるべきである。もしくは先に記すべき
- 犯人は最初の方に出すべきである
共通点を見ていると、作者と探偵、そして読者は平等であるべきという考えが見えてきます。
「どうしたら読者を置いていかずに、探偵に事件を解決させるかことができるか」が推理作家の腕の見せ所なのかもしれませんね。
まとめ
今回は氷菓を観ていて気になった推理小説を書く上のルールについて紹介してみました。
推理小説のルールを無視したらとんでもないことになりそうですよね。
- 魔法を使って壁を通り抜けることができたから、密室殺人の完成だ!
- 得意の催眠術で犯人を自供させてやろう!
確かにこんなことになったら推理もへったくれも無いですよね。
でも江戸川乱歩は、「これらの決まりを守らなくても力量のある作家なら優れた作品を書ける」と評しているんですよね。
それはさておき、これから推理小説を読むときはこれらの決まりを意識しながら読むのも面白いかもしれませんね。
それではノシ!